「は?」

って、いつもの呆れ顔をされて、もう1ヶ月前。
ぜったい期待なんてしちゃだめだって、意識なんてしちゃだめだって思っているのに、
胸の鼓動が止まらない。

 

[ White Lie & Day ]


 

はぁ…

教室について、小さくため息をついた。
ここまでは、なんとか出くわさずに来れた…。

本当は今日は休んでしまおうと思った。
でもそれで前みたいに「なんで休んでるんだ」とか家に押しかけられて、
無理やりこの気持ちを吐かされるぐらいなら、この鼓動と戦いながら今日という日常を
演じるほうがいい…そう思って登校したはいいものの…

どうしても、胸の鼓動が止まらない。
元はと言えば、自分がまいた種のようなものだから、本当にバカな自分にため息がつきないのだけど…





1ヶ月前、つまるところバレンタインに、
何を血迷ったか、私は教授にチョコをあげてしまった。


アメリカでは日本のように女からチョコをあげるような風習はなく、
一般的には男から女に贈り物がある日だということも重々承知していたけど、渡してしまった。



「は?」

あの時の教授の呆れ顔を思い出すたびに、顔から火がでる思いがする。
でもあのとき、私に何かくれるとかじゃなくて、教授が誰かに贈り物したら…と思ったら、
何もせずにはいられなかった。



「いえ、だからその、プレゼントというか、チョコです」
「…なんで?」
「なんでって…あ、ほら、前に板チョコもらったのでお返しに」
「…ふ〜ん?」


何も考えずに教官室に行ってしまったので、言い訳もこんなかんじでめちゃくちゃだった。
明らかに教授は納得してなかったけど、約束があるとか言ってさっさと帰ってしまった。
きっと、相変わらず変な奴だとか思われたに違いない…

そう、絶対そうだと思っているのに、どこかで、教授はわかってくれてて、
お返しをくれるんじゃないかって期待してる。だからこんなにドキドキしてる。
ぜったい適わない期待なんだからって頭で言い聞かせても、体が言うことを聞かない。

事実、イブにキスされて翌日デートっぽいことをしてしまったのだけど、
年が明けてからは、今までどおりの付き合いだった。
たまに送ってくれたりとか、ご飯を食べたりはしたけど、色っぽいことは何一つなかった。
それこそ、あのキスは夢だったんじゃないかって思うほどに。




うぅ…考えれば考えるほど、教授の気持ちが気になって仕方がない。
あれは気まぐれだったのか…それとも私がまだお子様だから相手をしないのか…
こんなに誰かのことを思うのは、すごく久しぶりだし…こんなに苦しくなるのは、初めてかもしれない。
もういいかげん終わりにしたい…


でもその答えが「気まぐれ」とかだったら、私はどうするんだろう。

あきらめる…? あきらめたくない…?

あきらめたくないとしても、どうやったら願いが叶うんだろう…
あんな凄い人と比べたら、私なんて何の変哲もない人間なのに…








「いつまでそこにいるつもりなの?」

「…え?」

背後から声がして、ふいに顔をあげると、教室にはもう誰もいなかった。

「あれ…」
「とっくに終わってるわ、相変わらず抜けてるわね」
「ネオンちゃん…」

ドアに軽く背をついて、相変わらずの口調でそう言われた。


「…ほんと、バカだよね、私って…」
自嘲ぎみにそういうと、ネオンちゃんからは予想外の返事がかえってきた。

「そうね…あなたも、彼もね」
「…?」
「伝言、渡すものがあるから教官室まで来るように」
「え…!?」
「それじゃ、伝えたわ」

そう短く答えると、ネオンちゃんは去っていってしまった。

「伝言って、誰からの…、
 …なんて、決まってるようなものだけど…」


ネオンちゃんが言うことを聞く教授といったら、彼しかいない。

私の顔は、今すごく赤いと思う。





トントン…

「どーぞ」
「失礼します…」
「…来たか」

来てしまった。あの伝言は聞かなかったことにして帰る事もできた。
でももうきっとあのイブから、私は逃げられなくなってしまったのだと思う、この人から。
顔をあげると、窓際で外を眺めている姿が目に入った。


「…」
「…」
「あの…なんなんですか? 今日は…」

至って普通を振舞ったつもりだけど、少し声が震えてしまった。

「渡したいものがあるが…その前に」

視線をこちらに向けたと思うと、予想していた内容に近い言葉がかけられた。






「…あれは板チョコの礼だったんだよな?」


「え!? あー…そうでしたね…」


やっぱり…今日渡すものって…
一生懸命押し込めていた期待が頭の中でぐるぐる回った。さっそく思考回路が崩壊しそうだ。


「俺は板チョコ以上の飯を奢った気がするけど、それも返すつもりあるのか?」

「え…(えーーーー!) いやぁ…あれはなんていうか…その」

「飯以外も、お前がこっちにきてから色々世話やいてるはずだが」

「そ、そーですよねぇ…はは…スイマセン…お返しできなくて」


なんなんだろう…この会話は。予想と近いようで、なんだか遠い。
教授の意図する内容が見えてこない…。




「返す気があるなら、返せるだろ…」

「(ひーーーーーっいつの時代の借金とりだよ〜)」



「ま、別に返してほしくて世話したわけじゃねーし、どっちでもいいけど。その気があるなら受け取れ」

「…は?」



ぽーん、と、小さな箱が足元に飛んできた。



「なんですかこれ…」
「まぁ見ればさすがのお前もわかるだろ」
「はぁ…すいませんね、鈍か…ん……………」






箱の簡単な包装をとると、見覚えのある箱が現れ、私は手が止まった。




「これって…」
「…」
「やだ、怖すぎます…! これは見なかったことに…」
「…」
「ちょ、止めてください。マジで帰りそうになりましたって」
「別に強要するもんじゃないしな」
「…(まじ、だ…教授。こーゆーときばっかり、真面目になって…)」


悔しい気持ちと、高鳴る思いと、泣きそうな気持ちと、色んな思いを抱えて開けた箱の中身は、
箱の形状どおり、指輪だった。シンプルだけど、流線型のデザインに青い石がキラキラしていた。




「その、えっと…これって、やっぱりその…」

「バレンタインにやるつもりが、お前のせいで1ヶ月伸びだ」

「え…」





アメリカでは、バレンタインに贈られる指輪は特別な意味が篭ってるのが常識だって
誰かが言っていた。





「ありがとう…ござい…ます…」

「バーカ…何泣いてんだ」

「わからない…けど、止まらない…」

本当にもう、何がなんだかわからない。バレンタインのお返しがもらえると思ってたら、それはバレンタインにくれる予定のもので、私がチョコをあげたせいで渡せなくなったものだって…


「もう、なにがなんだかわかりません…っ」


ボロボロ涙が止まらない私の頬に、教授の手が優しく触れた。



「…見ればわかるだろ。一生かけてもお前には返せない代物だから、安心しろよ」

「…なに…それ……安心って…」


泣きながら苦笑したら、ふわりと抱きしめられた。
それだけで、さっきまでの苦しい気持ちがウソみたいになくなっていた。

今は全然頭じゃ理解できないけど、この温もりと輝く指輪が、
ずっとわからなかった教授の気持ちをわからせてくれた気がする。

私はもうあんな風に悲観がったりしなくていいんだってこと…
そんな心配はバカげてるって…これからはもっとそばで、教えてくれるんですよね…








 


まわりくどー!! でも教授は皮肉屋さんで素直にプロポーズとかありえん!
とか考えてた、こんな回りくどいことになりました;
ホワイトデーまでお預けしてたのは、教授のいじわると、本当に自分が好きかわからせるための時間だったと思います、きっと!(なんだきっとって!!
主人公の語りばかりですいませんでした;機会があれば教授視点でも書いてみたいと思います。
 

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